暖房・冷房システムの脱気【基礎理論及び実用的解決法】~ガスはエアと同じではない-問題の複雑さについて~ (第一章)

はじめに

いわゆる「エアに起因する様々な問題」は誰もが知っています。すなわち、「暖まらないラジエーター、エアロックによる循環障害、流水騒音、スラッジの沈殿、潰食(エロージョンコロージョン)… それなのに、その解決策が見つからない」というものです。

そのような状況を打破すべく、当社は1995年以来、ドレスデン総合工科大学(TUD)エネルギー工学研究所との共同研究で「流体システムの脱気」の問題に取り組んできました。

1997年に当社は「温水暖房システム内の種々のガス、第1部」/1/を発表し、最初の中間報告を行いました。この中間報告では主として「温水暖房システム内のエア」というテーマが理論的にまとめられました。

ほぼ300件に及ぶガス含有量測定から得られた様々な発見が本小冊子「暖房・冷房システムの脱気」に集約されています。これらの調査はドレスデン総合工科大学が各地の暖房・冷房・地域暖房システムで実施したものです。

ダクト

調査結果:5割を超える現場がガスの問題を抱えている。

私達はこれらの原因を明らかにし、実現可能な解決策を2つの具体例により示したいと思います。

私達のこの報告書は主として、産業共同研究連合(AiF)の研究テーマ「中小規模の温水暖房ネットワークにおける種々のガス」に関する共同最終報告書/2/の報告を基に書いています。ある部分が学術的すぎる、あるいは範囲を広げすぎていると思われるところがもしあった場合はお許し下さい。膨大な情報の中から最も重要と思われるものを選り分けるのは決して容易なことではなかったのです。

ご質問やより詳細がお知りになりたいときはどうぞご遠慮なくお申し付け下さい。私達はこの問題についてのご意見、または現場でのご経験についての情報を心からお待ち申し上げます。

デートリッヒ ウルマン
製品マーケティング部長

署名:デートリッヒ ウルマン

ガスはエアと同じではない -問題の複雑さについて

これからの議論が余りに単純化あるいは矮小化され「エアの問題はガスと同じだ」といった誤った扱いをされることは稀なことではない。つまり、色々な「エアの問題」を「酸素の問題」に置き換え、各件の「エアの問題」を腐食の問題に帰結させてしまう。残念ながら、ことはそれほど簡単ではないのである。 ガスの問題は、実際には次の2つの形で現れる。

分離または溶解した種々のガスのなかには、多くの材料を腐食させる要因となるものがある。

最もよく知られた代表は酸素であり、これは鉄を腐食させる重要な原因物質である。図1は鉄材の使用割合が高いシステムにおける測定値を示している。ほとんどすべての測定値(開放システムの場合も含めて!)がVDI2035 第2 /3/ による上限値である0.1 mg/l より小さい(水道水中の酸素の自然な濃度の1%以下)という事実は、酸素が非常に反応性の高いガスであることを示している。

システム内で酸素は腐食(酸化)によってほぼ完全に消費される。このようなことから、システムの設計・施工で要求される事項は「酸素の継続的侵入を防ぐこと」であり、したがって「システムを密閉化すること」のみが強調される。

各種現場での循環水中に含まれる酸素含有量の測定

水中に溶け込む種々のガスは溶解限度を超えると気泡となって分離する。

これらのガスの中で窒素ガスは空気の主要な構成要素であることは良く知られている。 窒素は不活性ガスであり、酸素のように化学反応で消費されることはない。そのためシステム水中にそのまま残留している(図3)。測定では窒素の値が50 mg/l に達した例があった。これは水道水中の窒素ガスの自然濃度(18mg/l)の2.8倍にあたる。

この濃度では窒素ガスは、もはやすべてが水中に溶存していることができず、気泡の形で遊離する(図2)。この気泡は配管中の流速の遅い部分に集まり、それによって水の循環を阻害し、エアロックを起こすことになる。

また分離した気泡は潰食(エロージョンコロージョン)を発生させる元凶であり、不動態保護被膜を剥離し、さらにはポンプの羽根やバルブの摩耗を促進する。

試料採取した窒素

理論窒素ガス飽和度

水中におけるガスの溶解度についてはヘンリーの法則(図4)がある。溶解度は温度の上昇と圧力の低下ともに下がる。

これは例えば放熱器のエア溜まりトラブルが主に上層階に集中するのは何故かということを説明している。もし上層階の圧力保持が最低0.5bar以上であれば窒素ガスの70℃における溶解度は15mgということになる。

図3は実際の現場の上層階での理論窒素ガス(エア)飽和度(赤い縦棒線)が、調査したすべてのシステムにおいて15mg/l(赤い横線)以上であることを示している。

すなわち窒素の濃度が15mg/l 以下であれば一般的に問題は発生しないと言うことができる。この値はすでに大気圧脱気装置によって達成されている。

窒素と並んで、いくつかの現場システムでは水素やメタンも泡の形で遊離していることが確認された。これらのガスについてもヘンリーの法則があてはまる。

窒素の最大溶解度量

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