低温水暖房システムの有効性に関する重要な証言

『低温水暖房システムの有効性に関する重要な証言』のコンテンツには、主に以下の内容が含まれます。

◦Jarek Kurnitski教授博士
私の研究結果では、温水パネルヒーターを利用すると、平屋建ての住宅では約15%、二階建て以上の建物では最大で10%エネルギー効率が良くなる。
◦Christer Harrysson教授
与えられた条件下で、床暖房を利用するエリアのエネルギー消費量(室内の電気製品は除く)は、温水パネル暖房を利用するエリアの平均値と比べて、平均で15~25%多い。

Mikko Livonen(Rettig ICC 研究開発・調査技術基準部取締役)

2008年、Rettigの研究開発部門は新たなプロジェクトを始動しました。その目的は、暖房業界に根強く残る様々な誤解を解くことでした。私たちが名付けた「Pro Radiator Program」プロジェクトは、2年もの歳月を要しました。そしてその間に出た主張をまとめると、「温水パネル暖房に賛成である」、「温水パネル暖房に反対である」、「競合のシステム、他の暖房システムに賛成である」の3つのタイプに分けることができました。

私たちは、最終的に140もの主張や説を確認し、最初の調査後、これらをまとめて41の研究課題に振り分け、試験や分析を行って結論に達することができました。
公平で自立性のある研究結果を達成するため、この莫大な研究作業に参加してもらえないかと外部の専門家の方々に協力を仰いだところ、世界一流の専門家や大学、研究機関が私たちと共同で研究を行ってくださいました。その結果、膨大な量の研究データや結論、示唆を得ることができました。

また、暖房業界には通説や誤解があふれていることも分かりました。こうした通説や誤解が市場での議論の大半を占め、見当違いの内容から虚偽にいたるものまではびこっていました。しかし、私たちにとっての最大のニュースは、どの研究結果からも、適切に断熱された近代的な建物における温水パネルヒーターの効率性や機能性が証明されたことです。これらの結果を確認すると、私たちは、ヘルシンキ工科大学のHVAC研究所と共同で、様々な暖房システムを調査するための新たな研究プログラムを開始しました。正確なシミュレーションや機能比較を様々な暖房システムで行った結果、温水パネルヒーターに関する我々の当初の結果や結論が正しかったということが再確認できました。

具体的なデータ

この冊子の中でも、研究結果の一部については既に言及してきましたが、私たちの出した結論が、科学的理論を根拠にしているだけではなく、北欧地域に最近建設された省エネルギー建物から得た具体的なデータを根拠にしているということを覚えておいていただきたいのです。スウェーデン、フィンランド、ノルウェーおよびデンマークなどの国々は、何年も前から省エネルギー・高断熱の実践に取り組んできました。この事実と、Leen Peeters教授博士(ブリュッセル自由大学/ベルギー)やDietrich Schmidt博士(フラウンホーファー研究機構/ドイツ)を含めた学者の方々との共同研究から私たちが得た結果や結論は、いずれもヨーロッパのほとんどの国で根拠のあるものだと自信をもって言うことができます。前チャプターで概説した理論的蓄積の確証として、同一期間内に多数の試験を行うことにより、近代の暖房システムの効率を評価し、様々な暖房用放熱器のエネルギー使用量を比較しました。

専門家たちとの共同研究

Jarek Kurnitski教授博士とChrister Harrysson教授のお二人は、このチャプターの中で、今までの具体的なケーススタディに関する最も重要な知見を共有しています。

この冊子の中で私たちが言及してきた全ての研究によれば、低温水暖房システムの使用で、エネルギー効率を少なくとも15%アップさせることができるのです。この数字は控えめな推定値であり、一部の研究では、これ以上の効率アップも可能だとされています。なぜなら、高めの室温設定や長めの暖房期間などは居住者の生活スタイルによって違いがあるからです。

Jarek Kurnitski教授博士:熱質量と省エネルギー暖房

Jarek Kurnitski教授博士の研究によると、放熱器の熱質量は、低温水暖房システム全体の性能に大きな影響を及ぼします。極寒の冬の時期でも一番快適な温度範囲に室温を保つには、放熱量の迅速な変化が必要になります。

熱質量が小さく反応が速い温水パネル暖房の場合、熱利得による室温変動を最小限に抑えられる

熱利得と熱損失に対する室温反応(変化)の仕組みが、図4.1に示されています。ここでは、2つのシステムを比較しています。熱質量が小さく反応が速い温水パネル暖房の場合、熱利得は室温を最大で0.5℃上昇させ、設定値である21℃前後に室温を保ちます。熱質量が大きい従来の床暖房では、室温を一定に保つことはできません。研究によると、人が快適と感じる最低温度の21℃よりも高く室温を保つには、設定値を21.5℃に上げる必要がありました。床暖房の放熱面積が大きいということは、その大きな放熱量が次の熱需要量に追いつかず、結果として室温が大きく変動し、エネルギーを無駄にしてしまうということになります。

図4.1 通常、熱利得が暖房負荷の1/3を超えない、冬期間における放熱器の放熱量に対する室温の推移

現代の建物での熱利得の最大利用

4.1に示す状況は、ドイツにおける現代住宅に関する詳細な動的シミュレーションに基づくものです。図4.2には、1月第1週の室温が示されています。太陽熱および内部熱利得は予測不可能であるため、予測制御のシステムでは、床暖房の性能を向上させることはできません。熱利得により、床暖房の電源を停止してもなお、床面からかなりの時間、窓や外壁など低温の外面に放熱し続けます。これにより部屋が暖まりすぎてしまうのです。

夜間、室温の設定温度が21.5℃よりも下がると、床暖房の電源が入っていても、室温が上がり始めるまでに何時間もかかります。実際、研究によれば、室温は下がり続け、結果として設定温度を更に高くしなければなりませんでした。

前述の結果は、進化した建物シミュレーションソフトウェア(IDA-ICE)を使用して行われています。このソフトウェアは入念に検証され、このようなシステムの比較計算において非常に正確なデータを提供するものと証明されています。

図4.2 1月の1週目のシミュレーションされた室温 屋外温度、太陽熱、内部および外部の熱取得が左側に表示されます。

季節の端境期(春や秋)になると、熱利得(日射や内部発生熱)は、熱需要量に近くなるので、室温の制御が難しくなります。図4.3は、3月の2日間の温水パネルヒーターによるパフォーマンスを示しています。太陽熱利得は大きいものの、外気温が激しく変動しています。ここでもまた、温水パネル暖房の方が室温はより安定し、熱利得の利用率も高いことが分かります。

図4.3 3月の晴れた日は室温の変動を増加させます。

まとめ

いかに熱利得に対して反応を速くするか、またシステム内でいかに熱損失を低くするかが、エネルギー効率の良い暖房システムの鍵となります。熱需要量は部屋ごとに大きく異なるので、部屋ごとの個別の温度制御も非常に重要です。中央制御にしてしまうと、一部の部屋を暖めすぎてしまい、結果としてエネルギーが無駄になることがあります。このような理由から、私たちの研究では、システム内での熱損失を減らすために、低温水利用や個別(部屋別)に制御できる、反応性が高い温水パネルヒーターの利用をおすすめしているのです。

故に、私たちが温水パネルヒーターによる低温水暖房システムを使って測定した結果と比べると、床暖房の効果やエネルギー効率は低いと結論付けることができます。事実、全体の研究結果として、温水パネル暖房を利用すると、平屋建ての住宅では約15%、二階建て以上の建物では最大で10%効率が高いことが分かりました。

Christer Harrysson教授(エレブルー大学)

この研究の主な目的は、様々な暖房システムについての消費者の知識レベルを向上させることでした。そこで、私たちは特に、床暖房と温水パネル暖房とを比較しました。このプロジェクトは(株)クリスチャンスタードビッゲンとペアブ(株)によって開始され、DESS(スウェーデン南部地方エネルギー供給使節団<Delegation for Energy Supply in Southern Sweden>)とSBUF(スウェーデン建設産業開発基金<Development Fund of the Swedish Construction Industry>)からの資金提供を受けました。

ほぼ同じ仕様の一棟建て住宅でも、生活スタイルが違うと、家庭用電気や温水、暖房システムによる総エネルギー消費量が年間で合計10,000kWh違ってきます。断熱材やシール材、暖房システム、換気システムの組み合わせなど様々な技術的解決策が存在しますが、技術的解決策として何を選択するかによって、エネルギー消費量や室内環境に大きな差が生まれます。スウェーデン国立住宅・建築計画委員会(Swedish National Board of Housing, Building and Planning)の調査では、10区画の長屋居住区(テラスハウスやタウンハウス開発区と同じ仕様)にある330棟の電気を暖房用一次エネルギーとして使用する簡素な1棟建て住宅を対象に、電気消費量と水道消費量を様々な技術的解決策を使用して個別に調査しました。その結果、技術的解決策が違うと、総エネルギー消費量がおよそ30%違ったのです。中でもスウェーデン統計局からのデータ(スウェーデン国立住宅・建築計画委員会の調査データを含む)によれば、新築の小さな1棟建て住宅での家庭内用電気や温水、暖房システムによる総エネルギー消費量は年間で130kWh/m²まで抑えることができることが分かっています。

また、スウェーデン国立住宅・建築計画委員会の調査によると、小さなテラスハウス住宅で心地よい室内環境を保ちつつも、年間でわずか90〜100kWh/m²のエネルギーしか必要としない省エネルギーの技術的解決策があることが分かりました。この最低レベルのエネルギー負荷は、技術的にも経済的にも持続可能であると現在考えられています。

熱分配システムのレイアウトや配置も、エネルギー消費量に大きな影響を与える可能性があります。低温水暖房システムは、信頼できる真の熱分配システムであり、電気以外のエネルギー使用も可能にします。床暖房を使用する場合、より低温で熱交換が行われる装置を利用することによって、低品質つまり低温のエネルギー源をより効率よく使用することができるはずです。より快適な室内環境を提供し、費用対効果やエネルギー効率が高いのは温水パネル暖房なのか床暖房なのかという白熱した議論は、ここ数年繰り広げられています。

調 査

以下に述べるこの調査は、不動産管理会社である(株)クリスチャンスタードビッゲンが行っている開発区内の6つのブロック(合計130棟のアパートを含む)にある住宅を対象に行われたもので、暖房システムをはじめ、建物の機能を様々な技術を用いて調べたものです。

各ブロックには12~62棟のアパートが存在しています。ほとんどのアパートが平屋建てであり、床下断熱材付きのスラブ基礎の上に建てられています。6ブロックのうち、4ブロックは床暖房を利用し、2ブロックは温水パネル暖房を利用しています。各住宅には第3種換気または第1種換気が装備されています。

これらから収集したデータや記載情報、計算値を利用して各ブロックを互いに比較しました。計測したエネルギー消費量と水道消費量は年間値に換算し、居住面積、断熱基準、第3種換気、熱回収(もしあれば)、屋内温度、水道消費量、暖房熱の分配方法とその損失、電気ボイラー/制御装置の配置、個別または集中測定、排水による熱損失、補助建物の暖房(もしあれば)、電気製品を比較しました。

要約すると、所与の条件下で、床暖房を利用するブロック3~6のエネルギー消費量(電気製品を除く)は、温水パネル暖房を利用するブロック1~2の平均値と比べて、平均で15~25%多くなっているという結果が出ました。

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