少子高齢化や労働人口の減少などの影響もあり、人手不足は日本社会全体において大きな問題となっています。こうした課題を解決するために、今大きな注目を集めているのが省人化という取り組みです。
省人化とは、設備の改善や作業の効率化をすすめることで無駄を省き、人員を減少させる取り組みです。省人化の具体的な取り組みとしては、作業の振り分けや機械、ロボットの導入などがあげられます。これまで5人で行っていた作業を設備改善や作業効率化などで4人に減らすことができれば、それだけコストの削減や作業の効率化、生産性の向上につながります。
例えば、物流業界などでは積み荷作業や荷物の仕分けなどを、人の手ではなくロボットの作業によりまかなっているケースが増えていますが、これも省人化の典型的な取り組み例といえるでしょう。
省人化と同じような同じような場面で使われるものとして「省力化」「少人化」という言葉もあります。いずれも業務の効率化という点では変わりませんが、その方法や考え方が少し異なる点に注意が必要です。
省力化とは、作業プロセスの見直しや効率化により「人の力を省く」取り組みです。同じ作業を少ない人数で行えばコスト削減になるという考え方は同じですが、省力化はあくまで工数(作業量)にフォーカスした考え方です。例えば5人で行っていた作業を業務の効率化により4.2人分の仕事に削減できたとしても、業務を回すためには結局5人の人員が必要となり、コスト削減にはつながりません。
省人化は人員の数にフォーカスした考え方のため、4.2人分の作業量が生じたとしても、作業の振り分けや機械、ロボットの導入などにより、4人分の作業になるよう調整を行います。工数ではなく人の数で考えることで、確実なコスト削減を実現できるのです。
これに対し、少人化とはクライアントの需要(生産数の増減)にあわせ、最も少ない人数で対応するという取り組みです。一般的に、クライアントからの受注量は日々変動しています。しかし、注文が多いときも少ないときも同じ人数の従業員をアサインしておくのは無駄が生じ、コストもかかります。
受注量が10割の時は10人で対応し、8割の時は8人で対応できるよう、生産量に合わせて自由に人員を変動させられるような体制を作ることで、常に同じ生産性を保つのが少人化という取り組みです。
省人化が大きな注目を集めるようになった背景には、昨今の日本における労働力不足の問題があげられます。少子高齢化の影響もあり、日本の生産年齢人口は1995年をピークに減少の一途をたどっています。また総務省の調査(※)によると日本の総人口は、2060年には8,674万人(2010年人口の32.3%減)にまで減少すると見込まれており、労働力不足の問題は今後さらに加速することが予想されます。
※参考:情報通信白書 | 総務省
特に工場では優秀な技術者の人員不足が顕著になっており、一人の技術者にかかる負担が増えているという問題も生じています。こうした問題をそのままにしていると、離職率の悪化や定着率の低下の原因になり、人手不足をさらに加速させることになりかねません。人手不足の解消や従業員の負担軽減は、従業員の安全な生活を守るというだけでなく、企業を存続させていくためにも重要な取り組みなのです。
現在、多くの企業が省人化に注目し取り組みを進めている背景には、こうした深刻な人員不足の解消につながるという期待があります。先にも紹介したように、省人化は設備の改善や作業の効率化をすすめることで無駄を省く取り組みです。作業プロセスの見直しにより無駄な作業を削減したり、従業員ごとの労力の偏りを是正したり、また機械やロボットの導入により従業員の負担を軽減することができれば、結果として人的リソースの余裕を生むことにもつながります。
省人化は言葉だけ見れば、人員削減のための取り組みと誤解されることもあります。工場で働く従業員にしてみれば、自分の仕事が機械やロボットに代替されるような印象を抱くかもしれません。しかし、実際には省人化に取り組むことで、従業員一人ひとりの負担を軽減し、人的リソースの余裕を生みだすことができるのです。
省人化の取り組みは現在、さまざまな企業において行われています。ここでは主に、工場において省人化を実現する方法をご紹介しましょう。
近年はロボットの導入だけでなく、AIやIoTの技術を組み合わせて自動化に取り組む工場が増えています。製品の品質検査にAIを導入して不良率の低減につなげたり、製造ラインで行うすべての作業をロボット化したりするのはその代表的な例と言えるでしょう。
こうしたAIやIoTを導入することで効率的な生産を実現している工場はスマート工場(スマート・ファクトリー)と呼ばれ、大きな注目を集めています。
基本的なことではありますが、作業プロセスを見直し、改善していくのも省人化の重要な取り組みのひとつです。特に古くから営業しているような会社の場合、現在はもう必要のない作業や工程が習慣的に残っているというケースも少なくありません。
こうした不要な作業を洗い出し、作業プロセスの見直しと改善を行うことで、業務効率の改善につなげることができるのです。
IoTやAI、ロボットなど、工場におけるIT技術の発展はめざましく、省人化の流れは今後さらに加速することが予想されます。他社との競争に勝ち抜くためにも、ムダを減らし人手不足の解消につながる省人化は避けては通れない課題と言えるのではないでしょうか。
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